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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)2987号 判決 1954年1月21日

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中三〇〇日を本刑に算入する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人宮田勝吉の上告趣意について。

昭和二六年四月一二日宣告の原判決が、「法が訴因及びその変更手続の規定を定めた趣旨は審理の対象、範囲を明確にして被告人の利益を保護する目的にあるのであるから、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないときは、公訴事実の同一性を害しない限り、訴因の変更手続をしなくても訴因と異る事実を認定してもさしつかえがないものと解するのを相当とする」として、訴因変更の手続をとらずに窃盗の共同正犯を同幇助と認定した第一審判決を維持したこと、並びに、同二四年五月二日宣告の名古屋高等裁判所の判決(高等裁判所刑事判決特報第一号六頁以下参照)が、「仮令公訴事実の同一性を害さぬ場合でも法定の手続による追加、撤回、変更がなされぬ限り、起訴状に訴因を以て明示されていない事実は、それが被告人に実質的に不利益を与えると否とを問わず審判の対象とすることを禁止し当事者に対して不測の事実認定を受けないことを保障し当事者をして安んじて起訴状の又はその後の法定の手続によって審判の対象とされている当該訴因に攻撃防御を集中せしめる趣旨であって、訴因の異別は画一的に且厳格に判定すべきものと思われる」として、訴因変更の手続をとらずに共謀による窃盗行為自体をその幇助行為と認定した第一審判決を刑訴三七八条三号に該当する不法のものとしたことは所論のとおりである。従って、原判決は、右名古屋高等裁判所の判例と相反する判断をしたものといわなければならない。そして、刑訴二五六条は、公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならないことを命じている。しかし、同三一二条によれば、起訴状に記載された訴因の変更は、公訴事実の同一性を害しない限度において許されるものであり、また裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因の変更を命ずることができるものであり(従って適当と認めないときは、変更を命じなくてもよい。)、さらに、裁判所は、訴因の変更により被告人の防御に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に充分な防御の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない(従って、実質的な不利益を生ずる虞があると認めないとき、又は、認めても被告人等が請求しないときは、停止決定をする必要もない。)ものとされている。されば、法が訴因及びその変更手続を定めた趣旨は、原判決説示のごとく、審理の対象、範囲を明確にして、被告人の防御に不利益を与えないためであると認められるから、裁判所は、審理の経過に鑑み被告人の防御に実質的な不利益を生ずる虞れがないものと認めるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因変更手続をしないで、訴因と異る事実を認定しても差支えないものと解するのを相当とする。本件において被告人は、第一審公判廷で、窃盗共同正犯の訴因に対し、これを否認し、第一審判決認定の窃盗幇助の事実を以て弁解しており、本件公訴事実の範囲内に属するものと認められる窃盗幇助の防御に実質的な不利益を生ずる虞れはないのである。それ故、当裁判所は、刑訴四一〇条二項に従い、前記名古屋高等裁判所の判例を変更して原判決を維持するを相当とする。されば、論旨は、結局その理由がない。

被告人本人の上告趣意は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四〇八条、刑法二一条、刑訴一八一条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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